逆境こそが自分を磨くチャンス
11月中旬に行われた東京国際女子マラソンは日本中の国民が
大きな関心を持っていたと思う。
高橋尚子選手が、品川の辺りを走っている時は、独走体勢で
「本当に高橋という選手は凄い人だ、あれだけ騒がれ、日本中の人たちに期待されて、
尚且つ持てる力を発揮出来るということは、並外れた選手だな」と正直思っていた。
それが、30キロ手前で失速し始めた。
初めて見る光景だった。
それまでの走り方との違いをみて、
「あ-、これはダメだ。ゴール迄走れないのではないか」と思った。
彼女にとっても試合中に起きた初の経験で最後の10キロを走りながらの心の葛藤は、
いかばかりであったか、とても私がコメント出来るものではなかった・・・と思う。
我々が現役時代に5~6時間の技術練習の後、
体力強化のために走った長距離走(約20km)では、
15kmを過ぎた当りからは、それまでの苦しさから抜け出して、
「自然に足が動いた」という経験しか持ち合わせていない者にとっては、
まったく異質のマラソンという競技の難しさをマザマザと見せ付けられた。
ゴールした後の彼女の笑顔は、ゴールまでは何とか走りぬきたいという一心が
叶えることが出来た安堵感からくる爽やかなものであった・・・と私には思えた。
「28キロで足が棒になってしまいました。最後までたどり着こうと頑張りました。」
とのコメント。(翌日の朝日新聞)
絶好調と伝えられていたトップアスリートにも、突然、経験したこともない変調を来し、
小出監督に「マラソンは終わるまで分からない、怖いねぇ。」と何度も繰り返し云わしめた。
これからどのようにして、もう一度心身を立て直し、
アテネに向けて再度挑戦するのか、強い関心をもって見守っていきたい。
中国の古典で「菜根譚」というのがある。
その中に「逆境にあるときは身の回りのもの全てが良薬となる」という言葉がある。
また、19世紀のイギリスの政治家が言った言葉に
「いかなる教育も逆境に及ぶことなし」というものもある。
洋の東西を問わず、「逆境こそが人間を育てる」というのは、普遍的な真理と言えるようだ。
苦しいとき、壁にぶつかったときには、これらの言葉を思い出して欲しい。
今こそ、自分を磨くチャンスだと心得えればいい。
回りのすべてが自分を高めるための素晴らしい教師であり、薬である・・・と思えばいい。
困難を避け、逆境から逃げようとするのは、
自分自身を成長させる絶好の機会を自ら放棄してしまうことになる。
焦らず、じっくり腰を落ち着けて、困難な状況に正面から立ち向かい、活路を見出していく。
そうすれば、逆境を乗り越えて、気づいたときには、
一回りも二回りも成長した自分になっていることに驚かされ、
自分自身を褒めてあげ、自分自身に感謝することが出来るのではないだろうか。