良い遺伝子のスイッチをONにする

1999/7/01

先日、ある少人数の会合で、バイオテクノロジーの第一人者の筑波大学教授、
村上和雄先生のお話を隣の席で聞く機会に恵まれた。
先生は、1983年に高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子解読に成功、
世界的な業績として注目され、ノーベル賞候補にも上がっている方だ。
最近、天皇・皇后両陛下に招かれて食事をしながら一時間半程、お話をした内容を
かいつまんで話します…と言って我々に語って頂いた。
凄い固い話になるのかと思ったら、非常にユーモアがあり、解り易くどんどん引き付けられてしまった。
その一部を紹介すると、
私達の体は膨大な数の細胞から出来ている….ということは良く知っていると思うが、
どの位の数かというと体重60Kgの人で約60兆個もある。
そして、その細胞の中に遺伝子(DNA)が組み込まれている。
その遺伝子の基本情報量は、30億の化学の文字で書かれていて、これを、もし本にすると1,000頁の本で1,000冊分になる。
私達は、このDNAに書き込まれた膨大な情報によって生きている。
遺伝子というとすぐ頭に浮かぶのは「遺伝」=「親から子へ伝えられる特質」です。
背が高い、足が速い、目が大きい、といった身体的特性。
気が強い、引っ込み思案、といった性格的特性。
遺伝子は、そういうものを伝える媒体と思われている。
しかしそれは、遺伝子の持つ役割の半分でしかない。
遺伝子は、我々が呼吸をし、物を食べて排出し、また喜んだり、悩んだりしながら生きている生命活動の全てに関係している。
遺伝子は、目覚めていて機能する部分と、眠っていて機能しない部分とがある。
だが、眠っている部分が永久に眠っているかというとそうではなく、
目覚めて機能している遺伝子が死ぬまで働き詰めかというとそうでもない。
最近になって遺伝子の機能は、電灯のスイッチのように、付けたり消したりすることが
出来る。→ 条件次第で目を覚ます、ということが解ってきた。
30億の全遺伝情報のうち、実際に働いているのは、わずか5%程度にすぎないと考えられている。
だから一人の人間の持つ潜在能力は、とてつもなく大きいということは容易に想像できる。
つまり、自分に都合の良い遺伝子は目覚めさせて、どんどん働いて貰い、
都合の悪い遺伝子は眠っていて貰うのがベストだということになる。
人生には、こちらが求めていると、それに関連したことに出会うという何か不思議なことが起こる。
先生の体験から言うと、それには条件が3つある。
1.「こういうことをやりたい」という明確な目的意識があること。
2.その目的に向かってひたすら努力を重ねていること。
3.何かの障害があって、手詰まり状態になっていること。
この3つの条件が揃ったとき、論理的、科学的には説明しにくい不思議な現象が起こる。
そういう状態で脳を働かせると、一見、何の関係もないような現象や物が結びついて、
そこに類推力が働くようになる。
木からリンゴが落ちるのを見てひらめいたニュートン、
風呂に入っていてひらめいたアルキメデスも、
はっきりとした目的意識を持っていたからこそ、大発見が出来た。
類推力が働くと、常識では考えられないようなことが起こったり、出来たりする。
そういう力が生まれてくるようだ。
これは自分の中で普段は働かなかった遺伝子が働き出した、と考えられる。
よく火事場の馬鹿力というが、火事になると、か弱い女性でも重い荷物を持ち上げて
外に運び出せるというのは、
普段はOFFだった遺伝子がONになったから。
普段とはケタ違いの大きなエネルギーがどこから出たか….それは火事という緊急事態によって眠っていた遺伝子を目覚めさせ、瞬時に膨大なエネルギーを作り出したということで、
私達の気持ちや心のあり方が遺伝子に多大な影響を及ぼしているということです。
要するに人生をより良く生きる為には、良い遺伝子をONにして悪い遺伝子はOFFにするよう、自分をコントロール出来るようにならなければならない….ということです。
やはり生命科学の分野から見ても、大きな夢を持って、明るく前向きに努力する….
そして喜んだり、感動したりすることが、スイッチをONにする最も大事なことであると理解出来ました。
細胞が生きているということは、もの凄いことで、Something Great(天の偉大な存在)
からの授かりもので、何10兆円かけても作ることの出来ない生き物
=人間の身体は地球からの借り物で、人間として生きていることはSomething Great
からの、もの凄いプレゼントだ….と私は考えています。
これからは科学の世界と精神の世界を繋ぐ役割を研究することが私の使命だと考えている….と村上先生は結ばれた。