気持ちの切替の大切さ
新入生も入り、希望に満ちた新しい年度の始まりである。
「新」という字の語源は、「立っている木を斬る」からきているようだ。
斬ったばかりの木の切り口は、樹液に濡れており、切り口から吸い込んでみると、
命が甦るような香気を放っている。そういう瑞々しい感じがする。
人の命も、心や行動を日々新たにしていかなければ、どんどん衰退していってしまう。
皆さんも、新しい節目を迎えて、「心機一転」して、「やるぞ」と心に誓ったことがあるだろう。
読売新聞の記事で、明治安田生命が発表した「理想の上司」のアンケート調査で、
ヤクルト前監督兼選手の古田敦也氏が、3年連続でトップになったとのことです。
その古田氏が、次のように語っている。
プロ野球の世界は、毎日のように試合がある。
勝負事だから、勝ったり負けたりという結果が必ず付いてくる。
負けたら、やっぱり気分が悪い。
だけど、一つの負けや失敗を次の日に引きずらないことが、すごく大事なことです。
どんな方法でも、うまく切替が出来る人が生き残っている世界です。
勿論、結果に対する反省は常に必要です。
自分で原因を探って分かるときもあれば、分からないときもある。
でも、最終的には、納得できるような状況まで自分が努力できたかということがポイント。
つまり、そこに至るまで、自分はちゃんと準備していたかということです。
準備というのは、心理面もあれば体調面もある。
準備段階でのミスで、本番に勝てなかった・・ということになれば、非常に悔いが残りますからね。
僕がプロに入ったときの監督だった野村克也氏(現楽天イーグルス)はよく、
「ピンチを救うのは豊富な知識だ」と言われました。だから「本を読んで勉強しろ」と。
僕は、学生の頃から、いろんな本を読んでいました。
そこで知り得た知識を、頭の中の引き出しに入れていた。
引き出しの数が増えれば増えるほど、問題解決までの道のりが近くなります。
試合でピンチのときに、選手がマウンドに集まるでしょう。
あの時は、まず戦術的な確認を行なっているんですけど、
そこで誰かから「打たれたって、命までは取られないよ。思い切っていこう。」
なんて言葉がポンと出てきたりすると、思い出したように気分が楽になることがある。
ピンチに直面したときに、そういう言葉を口にして、引き出しを開くキッカケを作ることが多い。
絶対絶命のピンチだって、気の持ち方一つ。相手の打者にとっても、打てばヒーロー、
打てなければ期待を裏切ってしまうギリギリの場面です。
そのプレッシャーで、手が動かなくて、絶好球にも関わらず手が出せなくなるものです。
だから「開き直る」ということは、すごく大事です。
ここまでやって結果がダメなら仕方ない・・・というところまでやったら、悔いは残らない。
気持ちもすぐに切り替えられます。
監督になって、選手時代以上に決断しなくてはいけない場面が増えました。
一番大変なのは、選手にユニフォームを脱がせるときの決断。
野球の世界はその年の成績が全てですから、悪ければクビ、厳しい世界です。
立場が変わって、選手を切る側になった。
これだけは、どんなことをしても心が晴れません。
生きていく限り、どうしても気持ちを切り替えられないという場面や状況もあると思います。
だから尚更、自分にやれるだけのことをしたい。
選手として、監督として、悔いを残さないために、今の自分にできる努力と準備を
しているかどうか、と僕はいつも自分に問いかけています。
気持ちの切替は、本当に大事だと思う。人は生きている以上、イヤなことは幾らでもある。
だから、そのイヤなことを面白くできれば最高。そのためには、先入観を捨てること。
人は、自分勝手な思い込みや先入観に惑わされることがよくある。
人間関係にしても、「こういうタイプの人間とは合わない」と、はなから決めつけることで、
自分でストレスの種を生み出している。
人間関係の“食わず嫌い”というやつで、これは実に勿体無い。
人間は「力を入れろ」と言われて集中することはできるが、
「力を抜け」と言われてもなかなかできるものではない。
「忘れる」という行為も同じ。
「これを覚えろ」と言われたらできるが、「これを今すぐ忘れろ」と言われても無理です。
現に、イヤな出来事や心配事は、なかなか頭を離れてくれない。
これを忘れるには、“目線を移す”以外にはないんです。
別のことを考えるのに力を入れ、そちらに集中する。
そうすることで、イヤなことは遠くなり、心配事は薄らいでいく。
力の入れ具合と抜き具合が本当に大切で、
これが人間が生きていくには、物凄く大事な要素である。