スポーツとは全人格の勝負である
先日の全日本学生卓球選手権大会ダブルス
中野、下山組(早大)対高木和、森田組(青森大)の決勝戦。
一進一退の白熱した試合でセットオールの9-9となって下山のサーブ。
私は本部席の目の前でこの試合を観ていた。
近くで観戦していた役員の人達に、私は「中野は必ず3球目を思い切り攻めるよ」と
断言した。
その通り中野は強気で攻めて10-9とマッチポイントを握った。
次もどんなに難しい返球がきても思い切って打つだろうな・・・と思っていたら、
相手のレシーヴが失敗し、余りにもイージーなボールが返ってきた。
観客の誰もが、これで勝負が決まった・・・と思った。
ところが彼は勢い込んでそれをオーバーミスした。
普通の選手は、その大きなミスを悔やんで、自分に腹を立て、
後を引いて、敗戦につながってしまうケースが多いものである。
しかし彼は表情もしまって、動じる様子もなく、
その後も強気に攻めて、激戦を制し、二連覇を果たした。
試合直後、私は「中野、おめでとう」と握手しながら
「しかし、あのミスでどうなるかと思ったよ」と言ったところ、
彼は「いや僕の試合はいつもあんな調子ですから」という応えが返ってきた。
さすがだ・・・と思った。
大会後、帰りの飛行機の中で、見るともなく、ゴルフダイジェストという雑誌を
パラパラとめくっていたら、「タイガーから 無言のメッセージ」というページに
釘付けになってしまった。
宮里藍の父親の宮里優さんが書いたコメントである。
気が付いたら、私は夢中でメモを取っていた。
その全文を引用させて貰う。
全英オープン最終日のパー4でタイガー・ウッズのティショットがピンに当たって
グリーンの外にはじき出された場面がありましたね。
ナイスショットがバーディにはつながらなかったわけですが、
あのとき私には、タイガーがグッと唇を真一文字に結んで腹の中に
その事実を落とし込んでいるように見えました。
もしあそこで「いいショットなのに外に転がるなんて!」と腹を立てていたら、
タイガーのツキは消えていたでしょうね。
でもかれはアンラッキーだった結果を嘆くのではなく、
ピンに向かってまっすぐ飛んでいったプロセスに対して満足感を覚えていました。
そこに今年、彼が復活した理由があるように思います。
ゴルフにはアンラッキーがあります。
だから私はこどもたちに、スコアで文句を言ったことはなかった。
今の親たちは子どもたちが上手くなることだけにこだわり過ぎている気がします。
大事なことはボール拾いをしたり、目土をしたりといった作業の中にある。
それら一つ一つが教養になっていくからです。
タイガーは若くしてスターになったが、あの受け答えや態度を見ていると、
凄いのは技術というより人格や教養の部分じゃないか、という気がしてきます。
ゴルフの技術とともに、内面が高まっている。
これは藍にも口を酸っぱくして言っていますが、
強ければいいと思うのは大きな間違い。
最終的にはゴルフは人格の勝負です。
タイガーはそれを身をもって示してくれたのではないでしょうか。
技術だけじゃない。
タイガーが強いのはゴルフが人格の勝負だからだ。
藍も同じ方向に行ってほしい。 (宮里 優)